雑記等

幻影の天守閣 プロット

上田秀人による幻影の天守閣のプロット。
華々しい幕府の職制の中において地味な役職である留守居を題材にお話がどのように発展していったか等々。事前の構想という形で実際に出来上がった作品と対比して見ると面白いです。

■仮題「天守番頭差上状」

あらすじ

幕府の職制に留守居<るすい>と呼ばれるものがある。各藩の接待役である留守居役と違い、その名の通り将軍家が江戸を離れるときに留守城の守りを担う。お役を歴任してきた老練な旗本が任じられ、役目中は将軍と同じ権限をもつが、泰平の世の中で将軍が出陣することはなく閑職となっていた。だが、その留守居がひそかに江戸城を掌握するときがあった。それは将軍が死して、次の将軍が決まるまでのわずかな間である。

四代将軍家綱が死の床についた。家綱には世継ぎが居ない。家綱の弟綱吉、家綱の甥綱豊、そして家綱の愛妾お満流の方に宿る胎児が世継ぎ候補として認知されているところへ、大老酒井忠清が鎌倉の故事に倣い京の宮家から将軍を迎えるべしと言いだした。

そのころ明暦の大火で焼け落ちた天守閣跡の土台を警備していた天守番が襲われた。当番であった工藤小賢太の活躍で撃退することができたが、番士二人が敵刀に倒れるという事件が起きた。天守番を管轄する留守居大久保右京亮は配下の天守番之頭岩間八郎右衛門を通じ天守番工藤小賢太に探索を命じた。明暦の大火で焼け落ちその後再建されることの無かった江戸城天守閣の番士、まさに有名無実を地でゆく彼らに出世はない。若くして天守番に配された工藤は立身の糸口をつかむべく必死に動き回る。

一方、世継ぎは大老の権力で、宮将軍に決しそうになっていた。酒井は宮将軍をあやつって幕府を思い通りにしようとしていたのだ。探索のはてにそれに気づいた工藤だったが、あまりに露骨すぎる酒井家のやり方に疑問を抱く。そして春日局の養子老中堀田正亮によって酒井忠清の野望が潰えたとき、工藤は徳川家と祖を同じにし譜代第一といわれる酒井家が徳川家にもつ遺恨に突きあたる。

序章
四代将軍家綱の急病死、世継ぎ問題に揺れる幕閣、天守台を守る工藤の活躍。
第一章
留守居大久保右京亮から探索を命じられる工藤、宮将軍擁立を画策する酒井家、それを黙認する水戸光圀、綱吉と綱豊の暗闘。大奥の満流方を狙う不審な影。
第二章
再び襲われる天守台。襲撃者が同じご家人であることを知った小賢太は、その背後にかつて徳川家か三河の領主だったころに西三河を支配していた酒井家の姿を見つける。
水戸家の当主光圀との出会い。代参にでた満流方を狙う一団から助ける小賢太。
第三章
選ばれた宮将軍の出自に隠された謎、二代将軍秀忠が残した家康への復讐、水戸光圀の葛藤。
三代将軍を争った家光と忠長の陰に巻きこまれていく小賢太。
第四章
酒井忠清の一党との決戦に挑む小賢太。あっさりと敗退していく酒井忠清。
堀田正亮によって次期将軍の座を射止めた綱吉、大奥を出て桜田御用屋敷にて出産を待つ満流方。
第五章
桜田御用屋敷で流産した満流方。大老となった堀田正亮が殿中で刺殺されたる。
その背後に見え隠れする影と小賢太の戦い。
終章
桜田御用屋敷で余生を送る満流方と御用屋敷番になった小賢太の交流。
犬公方として悪名を高めていく綱吉。

主な登場人物

工藤小賢太
二十四歳、百石取の旗本。元は四百石取りだったが、父の代の不始末で減された。
天守番へ転じたことを無念としている。空鈍流小田切一雲の門人。
大久保右京亮教勝
小田原藩の分家三千石取の旗本。六十二歳。家光の小姓から小姓番組頭、西丸書院番頭、大番組頭と武辺一辺倒に勤めてきた。本家であった大久保忠隣を家康が罰したことにわだかまりを持ち大久保一族を再び引きあげてくれた秀忠に心を寄せている。
館林綱吉
後の五代将軍。家光の三男。黒鍬組出身の母の血を引く。勤勉好学ながら母親に一身の愛情を注ぐ。
甲府綱豊
後の六代将軍。家光の次男綱重の息子。
父の死に綱吉が関わっているのではないかと疑いを抱き、綱吉にことごとく反発する。
徳川光圀
御三家水戸徳川家当主。
御三家といいながら尾張紀伊より格下であることを不満に思い、徳川将軍家に一物をもつ。
酒井忠清
大老。家康の曾祖父の弟を始祖とする名門。家康の息子信康の自刃に関わったため家康から疎まれていた酒井家を譜代筆頭の地位にと暗闘するが、その実は家康の血筋を絶やすことを望んでいる。
有栖川幸仁親王
忠清によって宮将軍候補にあげられた人物。秀忠の息子忠長の孫。
お満流の方
旗本佐脇十郎左衛門の娘。十七歳で大奥に上がり家綱の手が着いた。
十八歳で一度家綱の子供を流産している。この度二度目の妊娠をした。
胎内の子供が男で有れば将軍世継ぎであることから、五代将軍を巡る抗争に巻きこまれる。

平成19年10月31日(水)
プロット文責:上田秀人
編集:管理担当

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